飲食店を個人で経営している場合、1年間の売上や仕入れ、店舗家賃、人件費などを整理し、所得に応じて確定申告を行う必要があります。
飲食店では、現金のほか、クレジットカードやQRコード決済、デリバリーサービスなど複数の方法で売上が発生するため、計上漏れに注意が必要です。また、食材や店舗家賃などは経費にできますが、年末に残った食材の棚卸しや、厨房設備・内装工事の減価償却が必要になる場合もあります。
この記事では、飲食店を経営する個人事業主の確定申告について、申告の流れや経費にできるもの、注意点などを解説します。
目次
飲食店の個人事業主に確定申告が必要なケース

飲食店を個人事業主として経営している場合でも、売上が発生したからといって必ず所得税の確定申告が必要になるわけではありません。
確定申告の要否は、基本的に売上額ではなく、売上から必要経費を差し引いた所得や所得控除、他の所得などを踏まえて判断します。
なお、2025年分以後の所得税では基礎控除が見直されています。たとえば、合計所得金額が132万円以下の場合の基礎控除額は95万円です。以前の「所得が48万円を超えたら確定申告が必要」という情報だけで判断しないよう注意しましょう。
【出典元】
国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
本業・副業で飲食店を経営している場合
飲食店を本業として経営している個人事業主は、売上から仕入れや店舗家賃、人件費などの必要経費を差し引いて事業所得を計算します。
そのうえで、基礎控除や社会保険料控除、生命保険料控除などの所得控除を反映し、納める所得税がある場合には原則として確定申告が必要です。
一方、会社員が副業として飲食店を経営している場合は、本業の給与について年末調整を受けていても、給与所得・退職所得以外の所得金額が20万円を超えるなど、一定の条件に該当すると確定申告が必要になります。
しかし、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が別途必要になることがあります。副業として店舗を経営している場合は、所得税だけで判断しないことが大切です。
【出典元】
国税庁|No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
赤字でも確定申告した方がよい場合がある
開業したばかりの飲食店では、内装工事や厨房設備の導入、広告などに費用がかかり、初年度は赤字になることもあります。
所得税が発生しない赤字の場合でも、青色申告をしている事業者は確定申告を行うことで、一定の要件のもと純損失を翌年以後3年間繰り越せます。
たとえば、開業初年度に赤字となり、翌年に利益が出た場合、繰り越した損失と翌年の所得を相殺できる可能性があります。
前年も青色申告をしている場合には、一定の要件を満たすことで、損失を前年に繰り戻して所得税の還付を受けられる場合もあります。赤字だから申告しなくてよいと考えず、今後の利益も考慮して判断しましょう。
飲食店の個人事業主は青色申告と白色申告のどちらを選ぶ?

個人事業主の所得税の確定申告には、大きく分けて青色申告と白色申告があります。
主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
| 事前申請 | 必要 | 不要 |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | なし |
| 赤字の繰越し | 原則3年間可能 | 原則不可 |
| 記帳 | 控除額などに応じた記帳が必要 | 記帳が必要 |
| 主な特徴 | 税制上の特典が多い | 手続きが比較的シンプル |
飲食店を継続して経営する予定であれば、税制上のメリットが多い青色申告を検討するとよいでしょう。
青色申告は特別控除や赤字の繰越ができる
青色申告では、一定の要件を満たすことで、所得金額から最大65万円の青色申告特別控除を差し引けます。
65万円控除を受けるには、正規の簿記の原則に従って記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内申告することに加え、e-Taxによる申告または優良な電子帳簿の保存などの要件を満たす必要があります。条件によって控除額は55万円または10万円となります。
また、青色申告では赤字を原則3年間繰り越せるほか、一定の条件を満たす家族に支払う給与を「青色事業専従者給与」として必要経費にできる制度もあります。
青色申告を利用するには、原則として適用を受けたい年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出します。その年の1月16日以後に開業した場合は、原則として開業日から2か月以内です。
【出典元】
国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告
白色申告は手続きが比較的簡単
白色申告は、青色申告のような事前の承認申請が必要ありません。青色申告と比較すると作成する書類や記帳方法が比較的シンプルであるため、開業直後で取引が少ない場合などには選択肢となります。
しかし、白色申告だから帳簿を付けなくてよいわけではありません。白色申告者にも記帳や帳簿書類の保存が求められます。
また、青色申告特別控除や通常の事業上の赤字を翌年以後へ繰り越す制度など、青色申告で利用できる税制上の特典を原則として利用できません。
店舗を長期的に経営する予定で、売上や取引件数が増えていくことが見込まれる場合は、開業時から青色申告を選択することも検討しましょう。
飲食店の個人事業主が確定申告する流れ

飲食店の確定申告は、申告時期になってから1年間の取引をまとめようとすると大きな負担になります。
基本的には、次の流れで準備を進めます。
- 売上・仕入れ・経費を日々記帳する
- 年末に棚卸しなどの決算処理を行う
- 必要書類を整理する
- 青色申告決算書または収支内訳書を作成する
- 所得税の確定申告書を作成する
- 期限までに申告・納税する
売上・仕入れ・経費を記帳する
まずは、日々発生する売上や仕入れ、経費を帳簿へ記録します。
飲食店では、現金売上だけでなく、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済、デリバリーサービスなど、売上の発生経路が複数になる場合があります。
POSレジや予約システム、決済サービスの管理画面、銀行口座への入金などを確認し、それぞれの売上を漏れなく記録しましょう。
また、食材や酒類などについては、年末時点で残っている在庫の棚卸しも必要です。年中に購入した食材のすべてをその年の売上原価にするのではなく、期末に残った在庫を確認して売上原価を計算します。
必要書類をそろえて申告書を作成する
帳簿の内容を整理したら、確定申告に必要な書類を準備します。
青色申告の場合は青色申告決算書、白色申告の場合は収支内訳書を作成し、確定申告書とあわせて提出します。そのほか、社会保険料控除や生命保険料控除などを利用する場合には、控除内容を確認できる書類も必要です。
会計ソフトを利用している場合は、1年間の仕訳を入力しておくことで、売上や経費の集計、決算書の作成を効率化できます。ただし、自動連携された取引の勘定科目や金額が正しいとは限らないため、申告前に確認しましょう。
期限内に申告・納税する
所得税の確定申告期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までです。期限の日が土曜日・日曜日・祝日などに当たる場合は、原則として翌平日が期限となります。
申告方法には、e-Taxによる電子申告や税務署への書面提出などがあります。所得税の納付についても、振替納税やダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード、スマホアプリなど複数の方法があります。
期限直前に売上や経費の整理を始めると申告漏れにつながりやすいため、できるだけ早めに帳簿を完成させておきましょう。
飲食店の個人事業主が確定申告で売上を計上する際のポイント

飲食店では、日々多数の取引が発生します。特に現金とキャッシュレス決済を併用している店舗では、それぞれの売上を正しく把握することが重要です。
現金・カード・キャッシュレス売上を漏れなく計上する
売上は、現金だけでなく、クレジットカードやQRコード決済、デリバリーサービスなどを含めて記録します。
キャッシュレス決済では、決済手数料が差し引かれてから銀行口座へ入金されるケースがあります。
たとえば、1万円の売上に対して300円の決済手数料が差し引かれ、9,700円が振り込まれた場合、原則として9,700円を売上とするのではなく、売上1万円と決済手数料300円をそれぞれ処理します。
銀行口座の入金額だけで売上を集計すると、売上を少なく計上してしまう可能性があるため注意しましょう。
レジ・伝票・入金記録を残す
飲食店の売上を適切に管理するためには、売上の根拠となる記録を残しておくことが重要です。たとえば、次のような資料があります。
- POSレジの日次・月次データ
- レジのジャーナルや伝票
- クレジットカード・QRコード決済の明細
- デリバリーサービスの売上明細
- 予約システムの記録
- 預金通帳やインターネットバンキングの入金記録
現金売上についても、毎日のレジ締めを行い、帳簿上の現金残高と実際の手元現金が一致しているか確認する習慣を付けると、売上の記録漏れを防ぎやすくなります。
自家消費やサービス分も適切に処理する
飲食店では、店舗の商品や食材を経営者自身や家族が私的に消費する場合があります。
販売用の商品などを家事のために消費した場合は「家事消費」となり、売上が発生していなくても収入金額への計上が必要です。家事消費の収入金額は、原則として通常の販売価額によって計算します。
しかし、仕入価額で計算することも認められており、仕入価額が通常の販売価額のおおむね70%より低い場合には、通常の販売価額の70%相当額で計算します。
一方、顧客への値引きや無料サービス、従業員へのまかないなどは、それぞれ取扱いが異なります。同じ「無料提供」でも自家消費と同じ処理になるとは限らないため、内容を区別して記録しておくことが大切です。
【出典元】
国税庁|令和7年分 白色申告者の決算の手引き
飲食店の個人事業主が確定申告で経費にできるもの

飲食店の経営に直接必要な支出は、原則として必要経費にできます。主な費用をまとめると次のとおりです。
| 主な費用 | 勘定科目の例 | 内容 |
| 食材・飲料・酒類 | 仕入高 | 料理や飲料として販売するもの |
| 店舗家賃 | 地代家賃 | 店舗として使用する物件の家賃 |
| 電気・ガス・水道 | 水道光熱費 | 厨房や店内で使用する光熱費 |
| 電話・インターネット | 通信費 | 店舗運営に使用する通信費 |
| 従業員給与 | 給料賃金 | 従業員へ支払う給与 |
| 外部業者への支払い | 外注費など | 清掃・制作などの外注費 |
| チラシ・Web広告 | 広告宣伝費 | 集客を目的とした費用 |
| キャッシュレス決済手数料 | 支払手数料 | 決済会社等へ支払う手数料 |
| 厨房設備・備品 | 減価償却費など | 冷蔵庫、厨房機器、家具など |
勘定科目の名称そのものより、どのような目的で支出したのかを説明できることが重要です。
食材・酒類などの仕入費
料理として提供する肉、魚、野菜、調味料などの食材や、販売するビール、ワイン、日本酒などの購入費用は仕入として処理できます。
しかし、その年に購入した仕入れをすべてそのまま経費にできるとは限りません。年末時点で未使用の食材や酒類などが残っている場合は棚卸資産として計上し、期首棚卸高と年間仕入高、期末棚卸高をもとに売上原価を計算します。
特に高額な酒類を多く保有する店舗などでは、年末の在庫金額が所得に影響する可能性があるため、数量や仕入単価を確認できるようにしておきましょう。
店舗家賃・水道光熱費・通信費
飲食店として使用する店舗の家賃や電気代、ガス代、水道代は、事業に必要な費用として経費にできます。
店舗で利用する電話やインターネット、予約用タブレットなどの通信費についても、事業用であれば経費として処理できます。
店舗専用の物件・契約であれば区分しやすいですが、自宅と店舗が同じ建物にある場合や、個人用と事業用で同じ通信契約を利用している場合には、事業で使用した部分だけを経費にする必要があります。
給与・外注費・広告宣伝費など
従業員へ支払う給与やアルバイト代も、飲食店経営に必要な支出として経費にできます。
店舗清掃やWebサイト制作、写真撮影などを外部の事業者へ依頼した場合には、業務内容に応じて外注費などとして処理します。
また、チラシやショップカードの制作費、グルメサイトへの掲載料、SNS広告、Web広告など、店舗の集客を目的として支出した費用は広告宣伝費として計上できます。
なお、生計を一にする家族へ支払う給与は、一般の従業員と同じように無条件で必要経費にできるわけではありません。青色事業専従者給与などの要件を確認しましょう。
厨房設備や内装費は減価償却する場合がある
飲食店では、冷蔵庫、製氷機、食器洗浄機、オーブン、エアコンなどの厨房設備や、テーブル、椅子、内装工事などにまとまった費用がかかります。
一定額以上の設備や備品は、購入した年に全額を経費とするのではなく、原則として法定耐用年数に応じて複数年に分けて「減価償却費」として経費にします。
一方、取得価額や申告方法などによっては、購入した年に経費へ計上できる制度を利用できる場合があります。
内装工事についても、工事内容によって建物、建物附属設備、器具備品など取扱いが異なることがあります。開業時にまとまった設備投資をした場合は、請求書の内訳を保存し、資産ごとに整理しておきましょう。
飲食店の個人事業主が経費を計上する際の注意点

経費として認められるかどうかは、「飲食店の経営に必要な支出か」が重要な判断基準になります。事業と私生活の支出を混在させないようにしましょう。
私的な飲食代や生活費は経費にできない
経営者自身の普段の食事代や家族との外食費、日用品など、事業と関係のない生活費は必要経費にできません。
一方、取引先との打ち合わせや事業上必要な会食などであれば、内容に応じて会議費や接待交際費などとして経費にできる場合があります。同じ飲食代でも、単に自分で食事をしたのか、事業上必要な会食なのかによって取扱いが変わります。
事業に関係する飲食費を計上するときは、領収書だけでなく、相手先や人数、目的なども記録しておくと、事業との関連性を説明しやすくなります。
自宅兼店舗の費用は家事按分する
自宅の1階を飲食店、2階を住居として利用しているような場合、建物にかかる費用をすべて経費にすることはできません。
店舗として使用している床面積や使用状況など、合理的な基準によって事業部分と私生活部分を分け、事業に対応する部分だけを必要経費にします。
たとえば、店舗と住居で同じ水道光熱費やインターネット回線を利用している場合にも、事業で使用している割合を合理的に算定します。家事関連費は、使用時間や床面積などの合理的な基準によって事業用部分を区分することが重要です。
領収書・レシート・請求書を保存する
経費を計上する場合は、支出の内容を確認できる領収書、レシート、請求書、クレジットカード明細などを保存しておきましょう。
レシートがない場合でも直ちに経費として認められなくなるとは限りませんが、支払日や金額、相手先、目的を客観的に確認できる資料を残しておくことが大切です。
また、メールで受け取った請求書やインターネットからダウンロードした領収書など、電子取引で受領したデータについては、電子帳簿保存法に基づいた保存が必要になります。
紙と電子データが混在すると管理が複雑になりやすいため、月ごとや取引先ごとに整理するルールを決めておくと確定申告を進めやすくなります。
飲食店の個人事業主が確定申告で注意したい税金

飲食店の個人事業主が確認する税金は所得税だけではありません。
売上規模やインボイス登録の有無、従業員の雇用状況などによって、消費税や源泉所得税への対応も必要になります。
インボイス登録などで消費税申告が必要になる
個人事業主でも、一定の条件に該当すると消費税の課税事業者になります。
たとえば、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合や、一定の特定期間の要件に該当する場合などです。
また、インボイス発行事業者として登録している場合は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、登録期間について原則として消費税の申告が必要になります。
飲食店では、店内飲食とテイクアウトで消費税率が異なる場合もあります。複数税率の商品を扱っている店舗は、レジ設定や売上区分にも注意しましょう。個人事業者の消費税の確定申告期限は、原則として翌年3月31日です。
【出典元】
国税庁|インボイス制度における確定申告
従業員給与は源泉徴収が必要になる場合がある
個人事業主が従業員やアルバイトを雇い、給与を支払う場合には、原則として給与から所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、事業者が国へ納付します。
源泉徴収した税額は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納付します。しかし、給与の支給人員が常時10人未満の場合は、税務署へ申請して承認を受けることで、対象となる源泉所得税を年2回にまとめて納付できる「納期の特例」を利用できる場合があります。
スタッフを初めて雇用するときは、給与計算だけでなく源泉所得税や年末調整などの手続きも確認しておきましょう。
現金売上や経費の申告漏れに注意する
飲食店では現金で代金を受け取る機会が多く、銀行口座への入金記録だけでは売上全体を把握できない場合があります。
現金売上を含め、POSレジや伝票、予約システム、キャッシュレス決済、デリバリーサービスなどの記録と帳簿の金額が一致しているか確認しましょう。また、売上だけでなく経費についても、私的支出の混入や二重計上に注意が必要です。
事業用の銀行口座やクレジットカードを分けておくと、店舗と個人のお金を区別しやすくなります。毎月売上と入金、現金残高を確認しておけば、確定申告の直前に1年分をまとめて確認する負担も減らせます。
飲食店の個人事業主は売上と経費を正しく管理して確定申告しよう

飲食店の確定申告では、現金やキャッシュレス決済などの売上を漏れなく記録し、食材の仕入れや店舗家賃、人件費などの経費を適切に計上することが大切です。
また、食材・酒類の棚卸しや厨房設備の減価償却、インボイス登録による消費税申告、従業員給与の源泉徴収などにも注意が必要です。日頃から帳簿や領収書、レジデータなどを整理しておくことで、申告漏れや確定申告時の負担を減らせます。
フータックス税理士法人松本では、個人事業主の確定申告や記帳、税務に関するご相談に対応しています。
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