パスポートの取得にかかった費用は、仕事で使う目的が明確であれば、必要経費として処理できる可能性があります。しかし、すべてのケースで認められるわけではなく、判断時に注意すべき点もあるので、取り扱いには十分な確認が必要です。
本記事では、パスポートの発行費用は経費にできるのかについて紹介します。他にも「パスポート取得費用の勘定科目」や「パスポート取得費用を計上する際の注意点」についても解説していきます。
ぜひこの記事を参考にして、パスポート発行費用の経費計上について理解を深めてみてください。
目次
パスポートの発行費用は経費にできる?

パスポートの取得費用を経費として計上できるかどうかは、使用目的によって異なります。具体的には、業務に関連した海外パスポートの取得にかかった費用が経費になるかどうかは、そのパスポートを何のために使うのかで判断されます。
例えば、海外出張や海外の取引先との打ち合わせなど事業に必要な渡航を目的として取得した場合は、必要経費として処理できる可能性があります。一方、観光や私的な渡航、個人の都合による海外滞在を目的として取得したケースでは、事業との関係が認められないため、経費に含めることはできません。
所得税法第37条第1項では、必要経費を「総収入金額を得るため直接に要した費用」等と規定しており、業務遂行上の直接的な必要性が問われます。
そのため、仕事上の理由でパスポートを取得したのであれば、あとから説明を求められた際に備えて、渡航目的や業務との関連性がわかるように整理しておくことが大切です。
【補足】個人事業主の場合は判断がより厳格に
個人事業主が自身のパスポート費用を計上する場合、法人が従業員の費用を負担するケースに比べて、税務上の判断はより厳しくなる傾向にあります。
パスポートは有効期間が5年または10年と長く、その期間内に行われるすべての渡航が「100%事業目的」であることを証明しなければなりません。少しでもプライベートな旅行で使用する可能性がある場合、税務署からは「家事費(私的な支出)」とみなされやすく、ガソリン代などのように実務上で事業割合を按分することも非常に困難です。
そのため、個人事業主が経費にする際は、その期間中の渡航が完全にビジネスのみであることを説明できるだけの明確な根拠が必要となります。
パスポートの発行費用を経費にできるケース

パスポートの発行費用を経費にできるケースについては、以下の2つが挙げられます。
- ・業務上必要なケース
- ・採用条件にパスポート取得が必須のケース
業務上必要なケース
代表的なのは、その従業員にとってパスポートの取得や更新が、業務を行ううえで欠かせないと客観的に説明できるケースです。仕事の内容とパスポートの必要性が明確に結びついているケースが該当します。
例えば、海外出張の回数が非常に多い場合が挙げられます。日常業務の一部として海外への渡航が繰り返し発生し、パスポートがなければ業務そのものに支障が出るような状況であれば、取得費用や更新費用が事業に必要な支出とみなされやすくなります。
また、海外赴任を予定している社員についても、パスポートは業務上必須となる書類です。そのため、赴任に向けた準備の一つとして、会社が取得費用を負担することが認められるケースがあります。
採用条件にパスポート取得が必須のケース
新卒採用や中途採用の場面でも、特定の職種について「入社までにパスポートを取得していること」を応募条件や雇用条件として明示している場合は、会社側がその費用を負担できる可能性があります。
例えば、国際営業職のように、入社時点から海外対応が前提となる職種では、パスポートの所持が業務に直結するためです。こうしたケースでは、取得費用も事業運営に必要な支出として扱われやすくなります。一方で、会社負担を認めてもらうためには、採用時点でその条件がはっきり示されていることが大切です。
求人票や労働契約書などに明記されていれば、業務上の必要性を客観的に説明しやすくなります。逆に、入社後になって突然海外出張が決まり、そのタイミングで取得したパスポート代を後から会社負担にしようとしても、業務との直接的な関係を証明しにくく、認められない可能性があるので注意が必要です。
パスポートの発行費用を経費にできないケース

パスポートの発行費用を経費にできないケースについては、以下の3つが挙げられます。
- ・プライベート用で取得したケース
- ・社員旅行のために取得したケース
- ・出張予定がないのに取得したケース
それぞれのケースについて解説していきます。
プライベート用で取得したケース
パスポートを取得した時点の目的があくまで個人的なものであれば、発行にかかった費用を経費として処理するのは難しいと考えられます。判断のポイントになるのは「後から仕事で使ったかどうか」ではなく、「取得した時点で何のために必要だったのか」という点です。
実際に、取得理由が私用であれば、事業に必要な支出とはみなされにくいです。このようなケースでは、業務で使う社員と私用で取得済みの社員との間で不公平に感じられることもあります。
そのため、会社によってはパスポート代を負担するのではなく、出張時の準備にかかる負担をならす目的で、一定額の出張準備金や手当を支給するなど別の形で対応を検討する場合もあります。
社員旅行のために取得したケース
海外への社員旅行に参加するためにパスポートを取得したとしても、その発行費用を会社の経費に含めることは基本的にできません。
社員旅行そのものにかかる航空券代や宿泊費などは、条件によって福利厚生費として処理できる場合がありますが、パスポートは個人に属する身分証明書として扱われるので、会社の事業に必要な支出とは認められにくいです。
原則として、パスポートは有効期限内であれば私的な渡航にも使用可能であり、その性質上、特定の業務にのみ供されるものとは言い難いためです。
経費として扱えるかどうかの分かれ目は、渡航の目的が福利厚生や私的要素を含むものなのか、あるいは業務遂行そのものに必要なものなのかという点にあります。そのため、パスポート代が経費として認められる可能性があるのは、海外出張や海外赴任など仕事を行うために取得が求められる場合に限られます。
出張予定がないのに取得したケース
海外出張や海外赴任の予定がまだ決まっていない段階でパスポートを取得した場合、その費用を経費として処理するのは難しいです。
例えば、「今後、海外出張が発生するかもしれない」といった見込みだけで申請したケースでは、取得時点で業務上の必要性が明確ではないので、私的な支出と判断されやすくなります。
経費として認められるためには、取得時において事業との関連性が客観的に説明できることが重要です。実際に海外出張や赴任の予定が決まっており、その渡航に向けて必要になったという事情があれば、業務上必要な支出として扱われる可能性が高まります。
パスポート取得に必要な書類

パスポートを申請する際は、あらかじめ必要書類をそろえておく必要があります。具体的に準備する書類は、次のとおりです。
- ・一般旅券発給申請書
- ・戸籍謄本(発行後6か月以内のもの)
- ・住民票の写し(住民登録している都道府県で申請する場合は、原則として不要)
- ・証明写真(撮影から6か月以内のもの)
- ・本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
これらの書類に不足や記載ミスがあると、申請手続きが進められず、パスポートの受け取りまでに余計な時間がかかる可能性があります。特に、海外出張などで使用予定がある場合は、スケジュールに余裕を持って準備しておくことが大切です。
パスポート取得にかかる費用

パスポート取得にかかる費用については、以下の2つが挙げられます。
- ・費用①申請手数料
- ・費用②証明写真代
費用①申請手数料

手数料一覧|必要書類・申請書記入例など|東京都生活文化局より引用
パスポートを申請する際には、所定の手数料を国や自治体に納める必要があり、費用の目安としては、10年用で16,000円、5年用で11,000円です。
支払い方法は内訳によって異なり、国に納付する分は収入印紙、自治体に納める分は収入証紙や現金で対応するケースが一般的です。なお、オンライン申請を利用した場合は、クレジットカード等による電子納付も選択可能です。
これらの取得費用については、仕事で必要となるパスポートであることが明確であれば、必要経費として処理できる可能性があります。
費用②証明写真代
パスポートを申請する際は、所定の規格を満たした証明写真を用意する必要があります。写真の撮影にかかる費用についても、業務で必要なパスポートを取得するための支出であれば、関連費用として経費に含められる可能性があります。
費用の目安は撮影方法によって異なり、駅や商業施設などにある証明写真機を利用する場合は800円~1,000円程度、写真館で撮影する場合は2,000円~3,000円程度かかることが一般的です。
パスポート取得費用の勘定科目

パスポート取得時に発生する費用は、すべて同じ勘定科目で処理するのではなくて、その支出がどのような目的で生じたのかによって、適切な勘定科目が変わります。
また、仕事に関連して取得した場合であっても、費用の内容や処理方針によって仕訳方法が異なるので、事前に整理して判断することが大切です。具体的に、パスポート取得費用の勘定科目については、以下の3つが挙げられます。
- ・勘定科目①租税公課
- ・勘定科目②旅費交通費
- ・勘定科目③雑費
それぞれの勘定科目について解説していきます。
勘定科目①租税公課
租税公課として処理されるのが一般的です。租税公課とは、国や自治体などの公的機関に納める税金や各種手数料を記帳する際に用いる勘定科目です。
例えば、申請時に必要となる収入印紙代や都道府県へ納める手数料などは、いずれも公的機関への支出にあたるので、この科目で計上するのが適しています。
なお、収入印紙や証紙による支払いは消費税法上、非課税取引に該当します。
勘定科目②旅費交通費
パスポート取得にかかった費用は、内容によっては「旅費交通費(または海外渡航費)」として処理できる場合もあります。例えば、海外出張や海外赴任に伴って取得したものであれば、業務で渡航するために必要な支出と考えられます。
実務では、渡航に関連するビザ申請費用などとまとめて計上するケースも見られます。しかし、あくまで仕事に必要な渡航を目的としていることが前提であり、私的な利用が含まれる場合には区別して判断する必要があります。
勘定科目③雑費
パスポート申請のために用意する証明写真の費用は、「雑費」として処理されることが多くあります。雑費は、どの主要な勘定科目にも当てはめにくい少額の支出や補助的な費用を記帳する際に使われる科目です。
証明写真代は、パスポートそのものの発行手数料ではなく、申請にあたって必要となる準備費用にあたるので、雑費として整理しやすい支出といえます。実際には、申請費用とは別に領収書が出ることも多く、区分して経理処理しやすい点も特徴です。
パスポート取得費用を計上する際の注意点

パスポート取得費用を計上する際の注意点については、以下の3つが挙げられます。
- ・業務に使用されたか確認する
- ・会社規定を確認しておく
- ・経費計上するタイミングに注意する
それぞれの注意点について解説していきます。
業務に使用されたか確認する
パスポート取得にかかった費用を経費として計上する場合は、そのパスポートが実務のために使われたことを確認しておく必要があります。
宿泊費の領収書や現地の取引先との書類、メールや打ち合わせ記録などをもとに、業務に使用した実態を示せるようにしておくことが重要です。このような証拠を踏まえて処理することで、経費計上の妥当性を説明しやすくなります。
また、後々の税務調査等に備えて、証憑(しょうひょう)の保管も徹底しましょう。
-
・手数料を納付した際の「領収証書」や「受領証」を破棄せず保管する
-
・パスポートのコピー(顔写真のページ、および該当する業務渡航時の出入国スタンプのページ)をセットで保存しておく
このように「取得した事実」と「実際に業務で使った事実」を紐付けて管理しておくことで、経費計上の信頼性をより高めることができます。
会社規定を確認しておく
パスポート取得費用を計上する際には、会社規定を確認しておくようにしましょう。実際に、海外とのやり取りが中心ではない企業では、パスポートを私的に利用する場面のほうが多いと考えられ、たとえ仕事で必要になる場合でも、取得費用を本人負担として扱うことがあります。
一方、近年は業務上の必要性が認められる場合に限り、パスポート取得にかかる費用を会社側が負担する旨を明文化している企業も増えています。そのため、パスポート関連費用を経費処理する際は、まず社内ルールを確認することが欠かせません。
就業規則や経費精算の規程などに、パスポート取得費用の扱いが定められている場合は、その内容に沿って処理する必要があります。法人が役員や従業員のパスポート取得費用を負担し、それが業務上必要と認められない場合は、その者に対する「給与」として課税対象となるリスクがある点に注意しましょう。
経費計上するタイミングに注意する
パスポート取得費用を経費に含める際は、いつ申請・発行したのかという時期も重要な判断材料になります。例えば、今後海外出張に行く可能性があるという段階で先に取得した場合は、まだ業務との結びつきが明確ではないので、必要経費として扱えないことがあります。
一方で、出張や海外業務の予定がすでに決まっており、その渡航に備えてパスポートを取得したのであれば、仕事に必要な支出として経費計上しやすくなります。
パスポート取得費用を正しく計上しよう!

今回は、パスポートの発行費用は経費にできるのかについて紹介しました。パスポート取得費用を経費として申請するには、いくつか満たしておくべき条件があります。
処理を進める際は、それぞれの要件に当てはまっているかを事前に確認することが大切です。ケースによっては、パスポート発行にかかった費用が経費として認められないこともあるため、判断を誤らないよう注意が求められます。
今回の記事を参考にして、パスポート取得費用を正しく計上しましょう。
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