
ホストクラブのホストの多くは個人事業主のプレイヤーとして業務委託契約を締結している場合がほとんどです。
しかし、業務委託契約書を締結していても、実態によっては労働者として認定される場合があります。労働者ではなく、個人事業主として認められるために注意すべきポイントについてここでは解説します。
ホストが雇用だと判断された事例
まずは、ホストクラブとホストの関係が「雇用」と判断された事例ですが、この事例は労働問題に関するものになりますが、税の考えにもつながる部分がありますのでご紹介します。
あるお店で働いたホストが未払い賃金の支払いを求めて訴えを起こしました。「残業代が未払いだ」という主張をしてきたのです。
そもそもホストクラブとホストの関係には大きく分けて2種類あります。ホストが従業員として雇用されて働く場合と、個人事業主としてお店から委託されて働く場合です。
これは「雇用」か「外注」かの関係になります。
ホストクラブの経営者は、ホストは完全歩合制で働いていたので雇用ではなく、外注だと主張しました。
実は、「雇用」なのか「外注」なのかによって労働基準法の対象となるか否かが決まります。「雇用」であれば労働基準法が適用されますが、「外注」であれば労働基準法の適用を受けません。このケースで裁判所は、お店とそのホストには労働契約、つまり雇用契約があったと認めました。したがって、ホストが残業をすれば、労働基準法が適用されるので、残業代を支払わなければなりません。
裁判官が「雇用」と判断したポイント
裁判官が「雇用」と判断したポイントは次の3つです。
①このホストはホストクラブから指示された接客を断ったことがない
②自分の指名客がおらず、いわいるヘルプとして接客していた
③ホストクラブがタイムカードで勤務時間を管理していた
以上からホストクラブとホストには労働契約があったと認め、ホストクラブに対し200万円弱の未払い残業代の支払いを命じたのです。
ところが、それだけでは終わりません。訴えを起こしたホストが「雇用」であれば、このお店で働くほかのホストも「雇用」に該当する可能性があります。200万円弱の未払い残業代を受け取ったとなれば、ほかのホストも黙っていません。
もし、そのホストクラブに100人のホストがいたとすれば、単純計算で2億円弱の支払いが必要になります。残業代以外にも「源泉所得税」や「消費税」の課税もされることになる可能性があるので、多額の支出を余儀なくされるでしょうから、ホストクラブを継続するのは困難な状況になるかもしれません。
最大の争点は「給料」か「報酬」か
ホストクラブの税務調査のなかで大きな攻防となるのが、ホストへの支払いは「給料」か「報酬」であるかの問題です。
これによって税額が大きく変わり、税務調査での指摘によっては、多額の追徴課税を受ける可能性があるポイントになるのでしっかりと押さえておきましょう。
ホストクラブに限らず、会社が仕事を依頼する場合には、従業員として雇用(労働契約)するか、外部の人に外注(業務委託)するか、主に2つの方法があります。つまり「給料」と「報酬」のどちらに該当するかで税金の取り扱いが大きく変わってきます。
給料だった場合
まず、一般的に雇用の場合では、会社は仕事の対価を「給料」という形で従業員に支払います。その際、税金を差し引きます。これは「源泉所得税」と呼ばれるもので、給料の額や家族構成などによって、どの程度の源泉所得税を差し引くかが変わります。
また、従業員として雇用する場合、会社は社会保険に加入しなければなりません。社会保険の保険料は従業員本人と会社が半分ずつ負担する仕組みになっています。
つまり、従業員を雇用する場合には、会社は給料以外にも社会保険料の負担が生じることになります。
報酬だった場合
一方、外注の場合はどうでしょうか。会社が仕事の対価を支払う際には、「報酬」という形になります。経理処理も給料ではなく外注費として計上することになります。
また、報酬を支払う場合にも、相手が個人でホストやホステスのような仕事内容である場合には、給料の場合と同様に報酬から源泉所得税を差し引く必要があります。
ホストクラブにとってはホストから預かった税金を納めるだけですから、源泉徴収をしてもしなくても、どちらでも変わらないように思うかもしれません。しかし、そう簡単ではないのです。
ホストがホストクラブで働いている一番の理由はお金が欲しいからです。納税意識が高いとはうえない彼らにとっては手元にいくら残るかが重要なのです。それが正しいことかどうかは別にして源泉徴収されずにお金をたくさんもらえるホストクラブのほうが魅力的に見えるのです。
源泉徴収をされて手取りが減ってしまうホストクラブであれば、ほかのライバル店に移籍してしまう恐れがあります。ですから、ホストクラブとしては、源泉徴収分を上乗せしてホストに支払い、引き留めることもあります。結果ホストクラブの負担が増えることになります。
源泉所得税への影響
税務調査でホストへの支払いが「給料」と見なされてしまうと、実際には源泉徴収をしていなくても、「源泉を差し引いた給料」と見なして給料から源泉所得税が計算されることがあります。その源泉徴収をしていたとみなされた税金は、ホストクラブ側が負担して納税することになります。例えば、源泉所得税が1万円だとした場合、11万円の総額から源泉所得税を1万円差し引いた10万円をホストに支払ったということになるのです。
税務調査でこのような指摘がされた場合には、1万円分のホストに対する経費が増えるので利益は減りますが、同額の1万円を源泉所得税の徴収漏れ分として納税することになるのです。
消費税への影響
もう1つ「給料」か「報酬」かによって大きな違いがあります。源泉所得税の取り扱いと同様にインパクトの大きいのが消費税の取り扱いです。
報酬の場合には、支払った報酬には消費税が含まれていることになりますが、給料には消費税がかからないので取り扱いが大きく異なり、結果として納める消費税額に大きな差が生じます。
売上に対して一番大きな割合を占める支出がホストへの支払いとなります。ホストクラブの場合、税務調査でホストの取扱いを報酬ではなく給料として指摘された場合、事業の存続に関わるほどのインパクトになる可能性があります。
例えば、年間の売上高が5億円、ホストへの支払いが3億円のホストクラブの場合で考えてみましょう。ホストへの支払いを外注として処理し、税務申告をしていましたが、税務調査でホストへの支払いを給料と指摘されると、3億円に対する消費税2400万円を追徴課税されることになるのです。さらに、税務調査の調査対象年度は複数年にわたりますので、インパクトの大きさを感じることができると思います。
「給料」か「報酬」かの判断によって源泉所得税、消費税などの税金に大きな影響を及ぼすことは理解できたのではないでしょうか。
税金以外にも前述の社会保険料にも大きな影響を与えるため、税務調査が入ったとき、経営者の立場としてはホストは外注であることを調査官に主張します。もちろん実態が伴っている必要があるのは言うまでもありません。
しかし、調査官は少しでも指摘ができそうな箇所を見つけると給料をと主張することもあり、最も大きな争点になります。
「雇用」と「外注」の線引きはどこでする?
一般の会社であれば、外注の仕事は次のような経緯をたどります。
一連の流れが完了した段階で、仕事を受託した会社は売上として計上し、外注に仕事を委託した会社が経費として税務申告をすることになります。この流れで仕事を進められれば外注になるのですが、ホストクラブとホストとの間で同じことをするのは現実的に難しいでしょう。
上の項目にYESが1つでも多いほど外注と認められる可能性が高いです。
そもそも「雇用」か「外注」かの判断は、税務署内部の運用規定でも総合的に判断することとされています。【「雇用」「外注」チェックシート】にまとめたように、外注として認められるには、さまざまなポイント一つひとつの事実を積み上げることが重要です。
まとめ
裁判でホストが「雇用」とされた事例からご紹介しました。ホストクラブで働くホストには「雇用」と「外注」という2種類の働き方があります。
雇用となった場合は源泉所得税と社会保険料の負担がホストクラブには発生し、ホストが働いた分だけ残業代も発生することになります。
また、雇用の場合は消費税も控除できず、売掛金の回収もホストクラブ側の負担となるため、ホストを外注にすることがとても重要になるポイントです。
税理士法人松本は、水商売業界に強くホストクラブも多くお客様にいらっしゃいます。ホストとの委託契約にお悩みのホストクラブ経営者の方は、税理士法人松本までお気軽にご相談ください。