
現在、キャバクラやスナック、ホストクラブなどで働いている方の中には、起業し、自分で水商売のお店を持ちたいと考えている方も多いのではないでしょうか。また、水商売で働いた経験はなくても、経営経験を活かして水商売のお店を立ち上げたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
実は、水商売のお店を開く際には、さまざまな許可や届出などが必要です。そのため、許可の要らない事業を起業する場合に比べ、複雑な手続きが必要になります。
そこで今回は、水商売で起業する場合に必要な届出や許可、起業までの流れについてご説明します。
水商売で起業をするということは?
起業とは、新しく事業を起こすことです。起業には個人事業主として事業を開始する方法と会社を立ち上げて事業を始める方法の2つのパターンがあります。どちらも事業を起こしているため起業に変わりはありませんが、一般的には、事業を立ち上げ、法人を設立するケースを起業と呼ぶことが多くなっています。
水商売で起業をする際に必要な届出や許可、資格
水商売で起業をする際には、さまざまな届出や許可、資格が必要です。水商売と言ってもさまざまな形態があるため、営む事業によって必要な届出や許可などは変わる場合もありますが、ここでは水商売を始める際に必要となることが多い届出や許可、資格についてご紹介します。
飲食店営業許可
キャバクラやスナック、ホストクラブ、バー、ラウンジ、ガールズバーなどは、お酒や食べ物を提供するため、飲食店に該当します。したがって、このような水商売のお店を起業する際には、飲食店営業許可を取得しなければなりません。
実際に飲食店営業許可を取得するのは、法人の設立登記が完了してからとなりますが、申請書を提出する前に保健所に事前相談をする必要があります。なぜなら、飲食店営業許可を取得するためには、定められた施設基準を満たす必要があるからです。事前相談をせずに工事を行った場合、工事終了後に改修が必要になる可能性があります。その場合、余分なコストが発生してしまうため、内装等の設計図が完成した時点で保健所に相談をするようにしましょう。
飲食店営業許可証は、必要書類を提出し、保健所の施設審査の際に問題がないことが確認された場合に発行されます。
食品衛生責任者
飲食店を経営する際には、店舗に必ず1人以上の食品衛生責任者を置かなければなりません。また、保健所に飲食店営業許可を申請する際には、食品衛生責任者の資格が必要です。そのため、飲食店営業許可を申請する前に、食品衛生責任者の資格取得が完了しているように計画を立てて手続きを進めましょう。食品衛生責任者の資格は、食品衛生協会が実施する講習会を受講することで取得が可能です。
風俗営業許可
キャバクラやホストクラブなどで行う、お客様の横に座ってお酒を注いだり、カラオケを一緒に歌ったりという行為は接待にあたります。接待を伴う水商売のお店を起業する際には、接待飲食店の1号営業に該当するため、風俗営業許可の取得が必要です。
風俗営業許可は、お店を管轄する警察署に申請することで取得できます。しかし、客室の床面積や室内の構造、照明の明るさなどについて細かな基準をクリアしなければならない点に注意が必要です。
風俗営業許可の申請をする際には定款や法人の登記事項証明書などの提出が必要になるため、法人設立後に申請を行うようになります。
深夜酒類提供飲食店営業の届出
深夜酒類提供飲食店営業とは、スナックやガールズバーなど、お客にアルコールを提供する飲食業で、午前0時から午前6時の深夜にもお酒を提供する場合に必要な届出です。この届出を行わない場合、午前0時を超えてお酒を提供することはできません。つまり、午前0時以降もお酒を提供し、営業を続けたい場合には、深夜酒類提供飲食店営業の届出をしなければならないのです。
水商売のお店を起業する際には、ここで1つ考えなければならないことがあります。キャバクラやホストクラブなど、接待を伴うお店を営業する場合には、風俗営業許可の取得が必要です。しかしながら、風俗営業許可の場合、営業できる時間は原則として午前0時以降の営業はできません。そのため、午前0時以降も営業を続けたい場合には、水商売のお店であっても接待を伴わない、ガールズバーやスナックなど、カウンター越しに接客するだけの形態を選ぶ必要があるのです。
深夜酒類提供飲食店営業の届出も、管轄の警察署への書類を提出することで行います。
防火管理者
店舗の収容人数がスタッフを含め30人以上となる場合には、防火管理者の選任も必要です。防火管理者には甲種と乙種の2つがあり、お店の面積が300㎡以上であるか300㎡未満であるかによって必要な資格が変わります。
防火管理者になるためには、乙種の場合は1日、甲種の場合は2日間の防火管理者講習を受ける必要があります。
水商売で起業をする際の流れ
水商売で起業をすることを会社設立と捉えた場合、会社設立の手続きも必要です。水商売で起業をする際の大まかな流れについてご紹介しましょう。
開きたいお店の形態を決定する
水商売で起業をすると言っても、水商売にはさまざまな事業の形態があります。お酒を提供するお店であれば、飲食店営業許可は必ず取得しなければなりませんが、水商売の種類によってそのほかに取得しなければならない許可や届出などが変わってきます。
したがって、水商売の起業を考えたときには、まずは、どのようなお店を開きたいのか、お店の形態を明確にすることが大切です。
コンセプトを明確にする
次にお店のコンセプトを決定します。誰でも気軽に入れるお店にしたいのか、会員制の格式の高いお店にしたいのか、コンセプトによって出店をするエリアやお店の内装、提供するサービスの内容、採用するキャストの雰囲気も変わります。
まずは、どのような層をターゲットとするのかを明確にすると、自然とコンセプトもまとめやすくなるでしょう。
出店エリアと店舗を決定する
コンセプトが決まったら、コンセプトに合わせて出店するエリアを選定します。例えば、若い男性が気軽に入れるキャバクラの経営を目指す場合には、若い世代が多く行き交う街を選んだほうがよいでしょう。反対に、高い収入を得ている落ち着いた年齢層をターゲットとした高級クラブなどの出店を考えているのであれば、ビジネスマンが訪れる落ち着いた街並みに出店しなければなりません。
ただし、風俗営業の1号営業に指定されているキャバクラやクラブ、ホストクラブ、深夜酒類提供飲食店営業を行うガールズバーやスナックなどは、営業が認められる地域が限定されている点に注意が必要です。水商売で起業をする際には、出店場所を選ぶ際、用途地域の確認をすることを忘れないようにしましょう。
食品衛生責任者の資格や防火管理者資格の取得
食品衛生責任者の資格がなければ、保健所に飲食店営業許可の申請を行うことはできません。食品衛生責任者講習は、会場で受けるかe-ランニング型の養成講習会を受講するかのいずれかで取得することができます。また、防火管理者の講習も時間があるときに受講しておくとよいでしょう。
内装・外装工事と保健所への相談
お店のコンセプトに基づき、内装や看板などの工事を進めます。前述のように、飲食店営業許可を取得する際には、店舗の設計が許可要件を満たしているものでなければなりません。万が一、工事完了後に要件を満たしていなかった場合、追加工事の費用がかかるだけでなく、お店のオープンも遅れてしまいます。
店舗の工事着手前に設計図を持参のうえで、事前に保健所に相談をし、設計に問題ないことを確認してから工事を進めることが大切です。
定款の作成と認証
水商売で起業する際には、他の業種で起業する場合と同様に、法人の設立登記手続きが必要です。まず、屋号(会社名)や本店所在地、資本金の額、事業目的など、会社の基本的なルールを決定し、会社の憲法とも言われる定款を作成します。定款の事業目的に記載されていない事業を運営することはできません。そのため、水商売の起業であっても、後々、別の事業も手掛ける予定があるのであれば、開始予定の事業も事業目的に含めておくようにしましょう。
定款には紙の定款と電子定款があり、紙の定款を作成した場合には定款に貼付する収入印紙代の負担が必要です。また、定款の作成後、株式会社を設立する場合は、公証役場での認証を受けなければなりません。定款の認証を受ける際には資本金の額に応じた手数料が発生します。合同会社や合資会社、合名会社などを設立する際には定款の認証は不要です。
資本金の払い込み
定款の作成と認証が済んだら、資本金の払い込みをします。この時点では、まだ会社は設立できていないため、法人の銀行口座を作ることはできません。したがって、発起人の個人口座に資本金の額を払い込むようにします。払い込んだ証拠を法人登記の際に提出する必要があるため、必ず振り込んだ人の名前が分かるよう、入金ではなく、振り込む形で払い込みをするようにしましょう。
登記申請書類の作成と登記申請
資本金を払い込んだら、法人登記に必要な書類を作成し、法務局で登記申請を行います。この際、登録免許税の費用負担が発生します。登記申請は、法務局の窓口で行うこともできますが、インターネットから申請することも可能です。
保健所への飲食店営業許可の申請
法人登記が完了したら保健所に飲食店営業許可の申請をします。申請に必要な書類は、次のようなものです。
・営業許可申請書
・施設の構造及び設備を示す図面
・食品衛生責任者の資格を証明する書類
・水質検査成績表(水道水や専用水道、簡易専用水道以外の水を使用する場合)
・許可申請手数料
営業許可申請書には、法人登記完了後に法務局から通知される法人番号を記載します。法人番号を記載しない場合には、登記事項証明書の添付が必要です。
また、申請はお店の工事が完了する10日前くらいまでには提出するようにしましょう。
警察署への風俗営業許可の申請
飲食店営業許可を取得したら、次に、警察署に風俗営業許可の申請を行います。ただし、風俗営業許可の申請の必要がない水商売の形態を選ぶ場合には、風俗営業許可の申請は不要です。
風俗営業許可の申請をする際には、次のような書類の提出が必要です。
・風俗営業許可申請書
・営業の方法について記載した書類
・営業所に係る賃貸借契約書(使用承諾書)及び建物に係る登記事項証明書
・営業所の平面図及び営業所の周囲の略図
・定款
・法人の登記事項証明書
・法人役員や管理者の本籍記載の住民票の写し、市区町村長の身分証明書、誓約書
・管理者の写真
・許可申請手数料
申請後、審査及び調査が行われ、問題ない場合に許可証が交付されます。風俗営業許可の申請から許可が決定するまでの期間の目安は55日と言われています。許可が下りる前に、営業を開始した場合、違反行為となる点に注意が必要です。
深夜酒類提供飲食店営業開始届の提出
水商売でも接待を伴わず、深夜もお酒を提供する形態のお店をオープンする場合には、警察署に深夜酒類提供飲食店営業開始届の提出を行います。
この際、以下の書類の提出が必要です。
・深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
・営業の方法を記載した書類
・営業所の平面図
・役員全員の住民票
・定款
・法人登記事項証明書
税務署や社会保険事務所等での手続き
会社の設立登記が完了し、飲食店営業許可や風俗営業許可などを取得できてもまだ、会社設立時に必要な手続きは完了したわけではありません。会社設立後は、税務署に対して法人設立届と給与支払事務所等の開設届を提出する必要があります。また、起業をする際には、たとえ社員を雇用しない場合であっても、社会保険の加入義務が発生します。そのため、年金事務所に健康保険と厚生年金保険新規適用届、被保険者資格取得届の提出が必要になることも忘れないようにしましょう。
まとめ
水商売で起業をする際は、一般的な会社を設立する場合と同様に、定款の作成や法人登記といった手続きが必要です。また、そのほか、飲食店営業許可や風俗営業許可などの取得が必要であり、食品衛生責任者や防火管理者の資格取得も必要となります。また、接待を伴わない水商売のお店を開く場合には、風俗営業許可は不要ですが深夜酒類提供飲食店営業開始届出書の提出が必要です。
水商売の起業時には、一般的な起業よりも手続きが複雑化するため、スムーズに法人を設立するためには水商売に詳しい専門家に相談するとよいでしょう。
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