
水商売を営む会社や個人事業主の中には、正しく税金の計算をし、期限までにしっかり納税しているケースもあるでしょう。しかし、他の業種に比べると、水商売は税金の申告漏れが多い業種として知られており、申告や納税の状況をチェックする税務調査の対象に選ばれる確率が高くなっています。
では、水商売を営んでいる法人や個人事業主は、どのような税金を支払わなければならないのでしょうか。
今回は、水商売に関わる法人や個人が納税すべき税金についてご説明します。
水商売を営む法人に課せられる税金
会社を設立し、水商売を営んでいる場合は次のような税金の納税が必要になります。
・法人税
・法人事業税
・法人住民税
・源泉所得税
・消費税
法人は、事業年度終了から2ヶ月以内に法人税の申告をしなければなりません。
法人税
法人税とは、法人が事業を営み、得た所得に対して課せられる税金のことです。法人税が課せられるのは、法人として登記をしている組織です。例えば、株式会社や有限会社、合同会社といった会社組織も法人に該当しますが、協同組合や医療法人なども法人税の課税対象となります。水商売を営んでいる場合は、株式会社や有限会社、合同会社などを設立するケースがほとんどでしょう。どのような形態の法人であっても、事業所得を得ている場合は法人税の納税が必要です。
法人税は、所得額に所定の税率を乗じて計算します。水商売のみを営んでいる会社の場合は、お店の売上が収入になります。また、テナント料や水道光熱費、キャストに支払う人件費、お酒やおつまみの仕入れ代などは、事業運営のために必要な経費として扱うことができ、売上から経費を差し引いた額が所得額となります。
法人税の税率は、2024年1月現在、原則として23.2%です。しかし、資本金が1億円以下の中小法人の場合は、所得額が年800万円以下の部分については税率が15%となります。
法人税額は、所得額に法人税率をかけて求めるため、売上が低い場合は納めるべき税金の額も低くなります。
法人事業税
法人事業税とは、法人が事業を営むにあたって利用しているサービスや公共施設などの経費の一部を負担する目的で課税される税金です。水商売の法人であれば、お店で水道を使用しており、お酒などを搬入するトラックは道路を利用するでしょう。そのような公共の施設・サービスの維持にかかる費用を法人も負担すべきであるという考えに基づき、法人事業税が課税されています。
法人税は、国に納める国税ですが、法人事業税は法人が事業を行っている都道府県に納める地方税です。法人事業税は、法人が行う事業に対して課される税金であり、事業を営むすべての法人は原則として法人事業税を納めなければなりません。
法人事業税の額は、所得額に法人事業税率をかけて算出します。法人事業税の税率は、法人の種類や所得額、事業開始年度によって区分けされており、税率は都道府県によっても変わってきます。
法人住民税
法人住民税も法人事業税と同様に、地方自治体が提供する行政サービスを利用していることに対して、負担が求められる税金です。法人事業税も法人住民税も地方税ですが、法人事業税は都道府県に納める税金であるのに対し、法人住民税は、法人が所在する都道府県と市区町村に対して納めるものであるといった違いがあります。
また、法人税は「法人税割」と「均等割」の2つに区分されています。均等割は、所得額に関わらず、資本金の額と従業員の数によって課せられる税金です。一方、法人税割は法人税の額をもとに算出するもので、均等割も法人税割も都道府県と市区町村のそれぞれに納税をします。
源泉所得税
源泉所得税とは、源泉徴収によって納める所得税のことです。給与や報酬の支払者である事業者が、給与などからあらかじめ税額を徴収し、給与を受け取る個人に代わって国に所得税を納めることを源泉徴収といいます。また、支払う給与や報酬などから所得税を徴収し、国に納税する義務を負う者を源泉徴収義務者といい、従業員などに給与や報酬を支払っている企業は源泉義務者に該当します。たとえ経営者が1人だけの法人を設立する場合でも、自分に役員報酬を支払うのであれば源泉徴収を行わなければなりません。当然、水商売を営む法人の場合も源泉徴収義務者となります。
ホステス等に支払う報酬や料金は、ホステスと雇用契約を締結しているかどうかに関わらず、源泉所得税をしなければならないとされています。しかし、ホステスとの雇用契約の有無によって税率の計算が変わってくる点に注意が必要です。
ホステスを従業員として雇用している場合は、給与として報酬を支払うことになるため、所得税の税率に応じて税金の額を計算しなければなりません。しかし、雇用契約を締結せずにホステスに報酬を支払っている場合は、(1ヶ月分の報酬-5,000円)×その月の日数×10.21%で計算するのです。
源泉徴収をする際には、ホステスとの関係性を確認したうえで、正しく納税するようにしましょう。
消費税
消費税は、商品やサービスを販売した際に課せられる税金です。事業者は消費者が支払う消費税を預かり、消費者に代わって国に納税することになります。年間の課税売上高が1,000万円未満の場合、消費税の納税義務はありません。しかし、インボイス制度の開始に伴い、インボイスを発行するためには、たとえ年間の売上高が1,000万円未満であっても、課税事業者となり、インボイスの登録事業者となる必要があります。
消費税の納税の際には、仕入額控除と呼ばれる仕組みを利用することができました。仕入れ額控除とは、売上時に消費者から受け取った消費税から、仕入れの際に仕入れ先に支払った消費税の額を差し引ける制度です。
しかし、インボイス制度のスタートにより、インボイスが発行されていない仕入取引は、仕入額控除の対象とすることができません。水商売のお店を利用するお客様の中には、会社の接待としてお店を利用するケースも少なくないでしょう。そのようなお客様は、インボイスの発行に対応していないお店を利用すると、接待時に支払った消費税を仕入額から控除できないため、利用を控える可能性があります。
売上高が年間1,000万円を超えているようであれば、インボイスの事業者登録をした方が賢明です。しかし、消費税の免税事業者である場合にはお客様のニーズも考えながら、課税事業者になり、インボイスの登録事業者となるべきかどうか、慎重に判断をした方がよいでしょう。
水商売を営む個人事業主に課せられる税金
キャバクラやスナック、バーなどの水商売のお店の中には、法人化せず、個人事業主として事業を営んでいるケースもあるでしょう。個人事業主の場合も一定以上の所得を得ているのであれば、税金を納めなければなりません。
個人事業主に課せられる税金は次のようなものです。
・所得税
・個人事業税
・個人住民税
・消費税
・源泉所得税
個人事業主の場合、毎年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行わなければなりません。
所得税
法人の場合、個人の所得と法人の所得は区別しなければならないため、経営者は法人から役員報酬という形でお金を受け取ることになります。また、経営者は役員報酬の額に応じた所得税や個人住民税の納税が必要です。
しかし、個人事業主として水商売のお店を営んでいる場合には、お店の所得が個人事業主の所得となります。したがって、お店と個人事業主に分けて納税をする必要はありません。
所得税は、個人の所得に対して課せられる税金です。水商売の場合は、お店の売上から必要経費を差し引いた額が所得額となります。
所得税と法人税では税率が異なり、所得税には法人税には適用されない累進課税制度が適用されています。累進課税制度とは、所得額が高くなるほど、税率も高くなるという制度です。例えば、年間の所得額が194万9,000円以下であれば、所得税の税率は5%ですが、年間4,000万円以上の所得がある場合、税率は45%にも上ります。
前述のように、法人税の税率は23.2%です。したがって、個人事業主として始めた水商売が軌道に乗り、事業規模を拡げたい場合には、法人化した方が納める税金の額は抑えられる可能性が高くなります。
個人事業税
個人事業税は、法定業種を営んでいる場合に課せられる税金であり、都道府県に納める地方税です。個人事業税の対象となる法定業種は70種類もあり、ほとんどの業種が個人事業税の課税対象となります。ただし、個人事業税が課せられるのは、年間の事業所得金額が290万円を超える場合です。スナックやキャバクラなどの水商売のお店で、風俗営業法の料理店業の許可を得ている場合は、料理店業に該当し、税率は5%となります。
個人事業税は確定申告を行うと都道府県税事務所から納税通知書が送付されるため、個人が税額を計算する必要はありません。
個人住民税
個人住民税は、都道府県と市区町村に納める地方税です。行政サービスに必要な経費を住民が分担するという考えのもとに課せられる税金であり、個人住民税にはいくつかの種類があります。このうち、所得割は前年の所得金額に応じて課税されるもので、所得金額によって税額が変動します。一方、均等割は所得に関わらず一定の額が課せられます。
個人住民税も個人事業税と同様に、市区町村から納税通知書が送付され、通知書に沿って納付することになるため、個人が税金の額を計算する必要はありません。
消費税
個人事業主であっても、課税所得額が1,000万円を超える場合消費税の納税義務があります。また、インボイス制度の開始に伴い、インボイスの発行を希望する場合には、売上額に関わらず消費税の課税事業者となるため、消費税を納めなければなりません。
源泉所得税
個人事業主として水商売を営み、従業員を雇用している場合やホステスなどに報酬を支払っている場合は、源泉徴収を行い、個人に代わって国に所得税を納税する必要があります。法人の場合と同じように、従業員の場合には給与所得者に対する所得税を適用しますが、個人事業主として仕事を依頼しているホステスに報酬を支払う場合は、前述のような税額の計算が必要です。
水商売で働く人が支払う税金は?
ここまで、水商売を営む法人や個人事業主が納めるべき税金についてご説明してきましたが、水商売で働く人も税金を納めなければなりません。
社員として働いている人の場合
キャバクラやスナックなどで、社員として働いている人の場合、所得税と個人住民税の納税が必要ですが、お店から支払われる給与や賞与から、所得税と個人住民税が徴収され、お店側が納税をしています。そのため、社員として働いている場合には、年収が2,000万円を超えない限り、個人的に確定申告などを行い、税金を納める必要はありません。
個人事業主として働いている人の場合
お店の雇用契約を結ばずに、キャストとして働いている方の場合は、個人事業主として扱われることになります。お店から支払われる報酬の明細を確認し、源泉徴収がなされていれば、所得税を納めているはずです。しかし、報酬から所得税が天引きされていない場合には、確定申告を行って、自分で所得税の納税をしなければなりません。確定申告をすると、所得額に応じた個人事業税と個人住民税の納税通知書が送付されるため、通知書にしたがい、指定の額を納税するようにしましょう。
ただし、個人事業主として水商売のお店を営んでいる人とは異なり、キャストとして働く人が誰かに報酬を支払うケースはほとんどないでしょう。その場合、源泉徴収義務はなく、源泉所得税を納付する必要はありません。
副業として働いている人も確定申告が必要な場合も
昼間は会社員として働き、夜は水商売で副業をしている人もいるでしょう。そのような方の場合、本業の会社では源泉徴収がなされており、会社から得ている給与所得にかかる所得税や住民税は支払っています。しかし、副業で20万円以上の所得を得ている場合は、副業の所得に対しても税金が課せられるため、ホステスとしての報酬も含めた副業の所得について確定申告をし、不足分の所得税や住民税などを納付する必要があります。
まとめ
水商売を営む法人は、法人税、法人事業税、法人住民税、消費税、源泉所得税の納税が必要です。また、水商売のお店を営む個人事業主の方も、所得税、個人事業税、個人住民税、消費税、源泉所得税の納税をしなければなりません。個人事業主として水商売のお店で働いている人も、所得税と個人住民税の納税が必要です。
税金を正しく納付していない場合、税務調査の対象となり、本来の納税額に加え、ペナルティとしてより多くの税金を課せられるリスクがあります。法人も個人事業主も税金の申告時期には期限が設定されているため、期限内に確実に納税することが大切です。確定申告の方法などに不安がある場合は、水商売に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
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