クラブやバーを経営し、お店で働いているホステスに報酬を支払っているオーナーの中には、ホステスに支払う報酬から税金を差し引き、店側が源泉徴収をして納税する必要があるのか悩んでいるケースもあるのではないでしょうか。過去にはホステスの報酬に関する税金を巡る裁判も行われています。
そこで今回は、ホステスと税金の関係について詳しくご説明します。

 

ホステスに支払う報酬と税金

ホステスに報酬や料金を支払うときは、所得税と復興特別所得税の源泉徴収が必要なことをご存じでしょうか?

 

所得税法で示されているホステスに支払う報酬・料金の源泉徴収義務

源泉徴収義務について謳われている所得税法第204条では「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払いをする者は、その支払いの際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。」としています。
さらに、第1項第6号に次のように記載されています。
「キャバレー、ナイトクラブ、バー、その他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせる又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に対してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金」
つまり、クラブやバーで働くホステスに支払う報酬や料金は、源泉徴収の対象となるのです。

 

所得税の源泉徴収制度とは

源泉徴収制度とは、給与や利子、配当などの所得を支払う者が所得を支払う際にあらかじめ所得税額を計算し、支払う金額から所得税額を差し引いたうえで、国に納付するという制度です。源泉徴収の対象となる代表的ものに、会社員が得る給与所得があります。会社員の場合、給与から所得税が天引きされ、会社が会社員に変わって所得税を国に納税しています。
給与と同様、ホステスに支払う報酬も源泉徴収の対象となっているのです。

 

源泉徴徴収の対象となる報酬や料金に含まれるもの

ホステスに支払う報酬というと、お店で働いた分の報酬だけと考えるかもしれません。しかし、お店で着用するために支払った衣装代や深夜に帰宅するために支払ったタクシー代も源泉徴収の対象となる点に注意が必要です。

 

ホステスに支払う報酬の源泉徴収税額の計算と納付方法

ホステスに支払う報酬から源泉徴収を行う場合、源泉徴収税額はどのように計算すればよいのでしょうか。源泉徴収する税額の計算方法と納付方法についてご紹介します。

 

源泉徴収する所得税の計算

源泉徴収すべき税金は、所得税と復興特別所得税の2つの税金です。源泉徴収の額は、報酬の額から同じホステスに対し1回で支払う金額について、5,000円にその報酬の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額を差し引き、残額に10.21%の税率を乗じて算出すると決められています。
計算期間の日数とは、営業日数や出勤日数ではなく、ホステスに支払う報酬の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数とされています。つまり、報酬を支払う月の日数が計算期間の日数に該当します。

 

ホステスの報酬の源泉徴収税額の計算例

たとえば、1月は1日から31日まであるため計算期間の日数は31日となります。1月にホステスが24日出勤し、60万円の報酬を支払う場合を例に源泉徴収すべき税金の額を計算してみましょう。
この場合、5,000円に計算期間の日数である31をかけると、5,000×31=155,000となります。
支払う報酬が60万円のため、60万円から15万5,000円を差し引くと、600,000-155,000=445,000となります。44万5,000円に対し、10.21%をかけるため、源泉徴収すべき税金の額は44万5,000円×10.21%=45,434.5と計算できます。1円未満の端数は切り捨てとなるため、源泉徴収する所得税と復興特別所得税の額は、4万5,434円です。

 

源泉徴収した所得税の納税期限

ホステスに支払った報酬から源泉徴収した所得税と復興特別所得税は、報酬を支払った月の翌月10日までに納税しなければなりません。納税方法には、e-taxを利用するか、報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)を添えて最寄りの金融機関若しくは税務署の窓口で納付する方法があります。
源泉所得税を毎月納付するには手間がかかるため、常時雇用している従業員が10人未満の場合は、源泉所得税の納税を年2回までに減らせる源泉所得税の納期の特例制度があります。しかし、この特例の適用を受けている場合でも、ホステスに支払う報酬については納期の特例の対象とはならない点に注意しなければなりません。

 

ホステスに支払う報酬の扱い方

ホステスに支払う報酬は源泉徴収の対象となることをご紹介してきましたが、実はホステスに支払われる報酬には給与と外注費の2つに分けられます。上にご紹介してきた所得税・復興特別所得税の計算方法は、外注費として報酬を支払った場合の計算方法です。

 

給与と外注費について

まず、ホステスがお店と雇用契約を結び、お店の従業員として働いている場合、ホステスに支払われる報酬は給与に該当します。給与所得に該当した場合もお店側は源泉徴収が必要となりますが、その場合の税率は10.21%ではありません。所得税の税率は、所得の種類によって異なります。給与所得の場合は、収入によって所得控除額や税率が変わるため、ホステスを雇用している場合は、前述の計算方法とは違う形で計算をしなければなりません。
一方、ホステスと雇用契約を結ばず、業務委託契約という形でホステスに報酬を支払っている場合は、ホステスの支払報酬は外注費となります。外注費の場合は、前述のような形で源泉徴収税額を計算します。

 

給与と外注費の違い

給与としてホステスに報酬を支払う場合と外注費としてホステスに報酬を支払う場合では、源泉徴収税額の計算が異なります。外注費として報酬を支払う場合には、31日の月の場合15万5,000円を差し引くことができます。このことは、報酬が15万5,000円以下であれば所得税の源泉徴収をする必要がないということを意味します。したがって、外注費として扱うと店側としては、源泉徴収の手間が省け、ホステス側は確定申告が必要になるものの手取りの額が減らないというメリットがあります。
また、雇用契約を結んだ場合、社会保険の加入義務が生じるため、お店側とホステス側の双方に社会保険料の負担が発生します。さらに、消費税の面でも違いが生じます。外注費として支払う場合は課税仕入れとして扱えますが、給与には消費税はかかりません。そのため、外注費として支払うとお店側の消費税の負担を軽減することが可能です。
このような事情から多くの場合、ホステスを従業員として雇用するのではなく、報酬を外注費として取り扱える業務委託契約という形でホステスに仕事を依頼するケースが多くなっています。

 

給与と外注費の判断基準

ホステスに支払う報酬を給与とせず、外注費として扱うとお店側に税制上のメリットが多くなります。しかし、実際のホステスの働き方などを見た場合、税務調査などでホステスに支払う報酬は外注費としてではなく、給与として扱うべきだと判断されるケースがあります。給与と外注費は、主に次のような情報を参考に判断されるケースが多くなっています。
・契約内容が他の人との代替ができるものであるか
・発注者の指揮監督・命令や空間的、時間的拘束を受けていないか
・仕事に必要な材料や道具、交通費などはホステスが負担しているか
・支払う報酬は日給や月給ではなく、仕事の内容で決まるものか
・賞与の支給や出勤簿などの労務管理が行われていないか
・履歴書や雇入通知書などが発行されていないか
・遅刻や欠勤した場合に報酬が減額されないか
答えが〇になるようであれば外注費、×になるようであれば給与として認識される可能性が高くなります。
たとえば、出勤時にタイムカードを押している場合は労務管理に該当するため、雇用契約がない場合でも給与に該当すると判断されるケースがあります。また、ホステスが着用する衣装代を店側が負担していたり、ホステスが仕事のために使用する携帯電話を貸与している場合、時給や日給制で報酬を支払っている場合も給与とみなされる可能性があるでしょう。

 

外注費が否認された場合のリスク

ホステスに支払う報酬を外注費として扱っていた場合、たとえ正しくホステスの報酬にかかる所得税の源泉徴収を行っていた場合でも、不足分の所得税の納税を求められる可能性があります。前述のように外注費として扱う場合、31日の月は15万5,000円、30日の月は15万円以下の報酬であれば、所得税の徴収対象とはなりません。しかし、給与の場合は、所得税の課税が必要になります。また、不納付加算税や延滞税などのペナルティの税金の納付が求められます。
さらに、ホステスに支払う報酬を外注費として扱っていた場合は、消費税の仕入れ額控除も否認されることになります。そのため、外注費として処理していた分にかかる消費税の納税も求められるのです。

 

まとめ

ホステスに支払う報酬は源泉徴収の対象となっており、支払う報酬から所得税分の額を徴収し、お店がホステスに代わって国に税金を納付しなければなりません。しかしながら、ホステスに支払う報酬を給与として扱う場合と外注費として扱う場合で所得税の計算方法が異なるため、同じ報酬を支払っている場合でも納める税金の額に違いが生じます。
ホステスに支払う報酬が給与に該当するか外注費に該当するかの判断は難しい部分も多く、適切に処理をされていないと判断された場合、追徴課税がなされる恐れがあります。
ホステスの報酬にかかる所得税について不安がある場合には、税務調査で指摘を受ける前にホステスの課税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。


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